キャロンという香水メーカーをご存じでしょうか?
お菓子のような可愛らしい名前ですが、実は100年以上の歴史を持つフランスの老舗メゾンです。
フランスでは、女性が生涯に一度はキャロンの香水を愛用すると言われるほど親しまれています。
今回は、香水メーカーとしての成り立ちや、代表する香水など詳しくご紹介します!
1.キャロンの成り立ち
長い歴史を持つキャロン。
創業時から現在までのエピソードを、少し紐解いてみましょう。
1-1.社名について
キャロンは1904年にエルネスト・ダストロフが創業しました。
その歴史は、創業者であり調香師のダストロフが小さな香水会社を買収したことから始まります。
創業当時は別の社名だったのを変更してキャロンという名前になりましたが、その経緯には諸説あります。
・キャロンという有名な曲芸師が新聞の演芸欄に載っていた
・ダルトロフがたまたま目にした雑貨店の名前がキャロンだった
いずれにせよ、この名前にピンときたダルトロフは、すぐさま同名の店に看板を買い取る手配を進めました。
まさに、ひと目ぼれならぬ、ひと聞き惚れですね!
1-2.フェリシエとの出会い
キャロンの歴史を語る上で、欠かすことができない女性がいます。
彼女の名は、フェリシエ・ヴァンプイユ。
当時所属する会社の建物が同じだったことがきっかけで、2人は出会いました。
ダルトロフと恋人関係になったフェリシエは、彼の良きアドバイザーでもあり、
キャロン製品のアートディレクターとしても活躍。
ダルトロフとともに、数々の傑作と呼ばれる香水を世に送り出しました。
残念ながら、のちに2人は恋人関係を解消してしまいますが、
1961年に株式会社化するまで、フェリシエはキャロンの経営に携わりました。
1-3.今なお愛される老舗
現在キャロンは、パトリック・アレス社という美容用品会社がオーナーをつとめています。
調香師はリチャード・フレイス。
リチャードは、ランバンの名香「アルページュ」の調香を手がけたアンドレ・フレイスの息子です。
彼は、自身のモットーを
「一にも二にも夢、つねに夢」
と答えており、そのクリエイティビティを遺憾なく発揮しています。
創業時からオーナーや調香師は変わりましたが、リチャードの発言から伺えるように、
伝統と冒険心を併せ持つブランド精神に変わりはありません。
キャロンは今でも、フランスをはじめとした世界中の香水ファンを魅了し続けています。
2.キャロンを代表するエルネスト・ダルトロフの作品
ここでは、キャロンの名詞代わりとも言える3つの香りをご紹介します。
各香水にまつわるエピソードと併せてお楽しみください◎
※それぞれの香りの特徴は、リニューアルなどにより変更されている場合があります。
2-1.ナルシス・ノワール(Narcisse Noir)
【基礎データ】
作出年:1911年
調香師:エルネスト・ダルトロフ
タイプ:フルーティフローラル
トップノート:レモン、ベルガモット、オレンジフラワー
ハートノート:ジャスミン、ナルシサス、ローズ
ベースノート:ムスク、サンダルウッド、ベチバー
この香水は、キャロンの名が世に広まるきっかけとなった香りと言っても過言ではありません。
ナルシス・ノワールとは、日本語では黒水仙と訳されます。
現実には黒い水仙の花は存在しませんが、なんとも妖しい魅力を放つ名前ですね。
甘くないのに華やかで、存在感のある官能的な香りです。
この香水を巡っては、ある華やかなエピソードがあります。
1919年に行われた博覧会でのこと。
キャロンは、その年に最も独創的だった香水メーカーに送られる賞を巡って他社と火花を散らしていました。
フェリシエとともに参加したダストロフは、初日のレセプションの続く晩餐会場に、
スイートピーを盛ったクリスタルの鉢を飾り、出席者にはバラの花びらをシャワーのように浴びせ、部屋をナルシス・ノワールの香りで満たす
というパフォーマンスをしました。
これが決め手となり、見事に受賞の座を射止めたキャロン。
賞金を手に入れ、当時の新聞の第一面を飾ったそうです。
現代では改良版がまだ販売されています。(日本にはありません。)
2-2.フルール・ド・ロカイユ(Fleur de Rocaille)
【基礎データ】
昨出年:1933年
調香師:エルネスト・ダルトロフ
タイプ:フローラル
トップノート:アルデヒド、ガーデニア、ヴァイオレット
ハートノート:ジャスミン、ローズ、スズラン、チュベローズ、イランイラン、ライラック、ミモザ、アイリス
ベースノート:サンダルウッド、シダーウッド、アンバー
フルール・ド・ロカイユとは「石の花」という意味です。
陽に焼かれた石のように強く、そしてその上に咲く花のように繊細なフレグランスという意味が込められています。
軽やかかつダイナミックな香りは、当時のスポーツ界における女性の地位を称えるべく作られたそうです。
この香水の創作にあたっては、ダストロフが印象派の画家モネの傑作「睡蓮」に影響を受けたといわれています。
光と影、そして色彩の複雑な重なりを捉えるモネの画風をそのまま香水で表したように、
幾重にも重なる香りが豊かなハーモニーを奏でています。
当時の香水産業に登場したばかりだった人工香料アルデヒドを、
ダストロフがうまく使いこなしたことで誕生した香りです。
ただし、現在は現キャロンの調香師リチャード・フレイスによって生まれ変わっております。
2-3.プール・アン・オム(POUR UN HOMME)
【基礎データ】
作出年:1934年
調香師:エルネスト・ダルトロフ、ミシェル・モルセッティ
タイプ:アロマティック オリエンタル
トップノート:レモン、ベルガモット、ラベンダー、ローズマリー
ハートノート:バニラ、ローズウッド
ベースノート:トンカビーン、アンバー、ムスク
1934年、香水メゾンのライバルであるジャン・パトゥは、サンオイルをかねた香水をはじめとした新作を次々と発表していました。
ダストロフは王者の座をパトゥに奪われまいと、常識を覆すような男性向け香水の開発に燃えていました。
そして調香師モルセッティと協力して完成したのが、プール・アン・オムです。
当時、男性の香水と言えば、ラベンダーのオーデコロンをほんの少し使うくらいでした。
男らしさと香りをまとうことは、相入れないと考えられていたからです。
そんななか、この香水はあえてラベンダーを大胆に使用!
ラベンダーのフローラルな力が、温かくやわらかいバニラと調和し、陶酔感のある香りへと変化していきます。
この香水は瞬く間に男性たちに受け入れられ、開拓が始まったばかりの男性用香水市場に、その後も名を残すヒットとなりました。
3.キャロン おすすめ香水6選
3-1.アンフィニ
タイプ:フルーティー・グルマン
トップノート:オレンジ、ペア、ピンクペッパー
ハートノート:ジャスミン、バニラ
ベースノート:ベンゾイン、ホワイトムスク、ミルラ、サンダルウッド
アンフィニはナルシスノワールが登場した翌年に、エルネスト・ダルトロフの手によって作り出されましたが、時代の背景に合わせて変化してきました。
今のアンフィニは2018年にリニューアルされた作品です。
ほんのちょっぴりスパイスの効いた、みずみずしい果物たちのトップノート。
女性らしく官能的な甘いハートノート。
仕上げに甘さにまろやさと温かみを加えてくれるベースノートという構成。
明るいトップノートから反転、一気に官能的で挑戦的な甘い誘惑に変化していく香りは、無限の奥行きが女性のよう。
3-2.エメ・モワ
バイオレット、アニス、ジャスミン、バニラ、オークモス
エメ・モワ=私を愛して。
名前から推察される通り、
自信があって主張がはっきりしている、個性的な香り。
だけど、それだけじゃないのです。
女性らしいバイオレットとアニスのバランスの取れた香りが、より魅力的にしてくれます。
3-3.フルール・ド・ロカイユ【現代版】
タイプ:フローラル
ガーデニア、リラ、バイオレット、スズラン、アンバー
先ほど登場しましたが、ここで紹介するのは生まれ変わった現代版です。
フルールドロカイユ=岩の花。
という名前だけど、岩の部分があまり見受けられないパウダリーな石鹸調のフローラルです。
フレッシュで柔らかいフローラルブーケは優しくデリケートなフェミニティ。
3-4.レディ・キャロン
フルーティー・フローラル
マグノリア、ジャスミン、ラズベリー、オークモス
エルネスト・ダルトロフは戦時中にアメリカに逃亡しました。
エルネスト・ダルトロフの回想録の中に彼を助けたアメリカへの敬意が綴られており、そのオマージュとして2000年に誕生した香水。
この香りの主役は自由で快活なフルーティノート。
ピーチのようなフルーティーなノートが、柔らかい甘さのマグノリア、ジャスミンに融合します。
ベースのオークモスが全体的にシプレの様相を与えてくれ、
爽快で上品な、香りになっています。
3-5.【メンズ】プール・アン・オム
トップノート:レモン、ベルガモット、ラベンダー、ローズマリー
ハートノート:バニラ、ローズウッド
ベースノート:トンカビーン、アンバー、ムスク
プールアンオムの特徴はラベンダーとバニラ。
アロマティックなトップノートは大胆に使われたラベンダーに寄り添うように、
フレッシュな印象を与え続け、
シンプルで無駄のないオリエンタルなバニラがラベンダーの角をとっている。
パウダリーで温かみがある香りは、いつまでも隣にいたくなるような安心感をもたらしてくれます。
3-6.【メンズ】ユズ
ゆず、バジル、サンダルウッド
ゆずは日本の男性には馴染みがありますよね。
酸味と苦味と渋みのバランスがいいフレッシュで爽快なアコードは、
爽やかで、男らしい香りです。
ウッディとの相性も良くゆずの良さを際立たせてくれます。
4.キャロンの香りを愛する著名人
創業以来、キャロンの香水は女優や俳優を含む多くのファンを魅了し続けています。
映画「サンセット大通り」の場面には、何の香水をつけているのかと聞かれた女優グロリア・スワンソンが、挑発的な眼差しで「ナルシス・ノワール」と答えるシーンがあります。
実際、彼女はこの香りをこよなく愛し、撮影現場も楽屋もすべてこの香りで満たしてほしいと頼んだそうです。
現在でも活躍するバーレスクダンサーのディタ・フォン・ティースも、この香りを愛用しています。
フルール・ド・ロカイユは、「風と共に去りぬ」などの映画で有名な女優のヴィヴィアン・リーが夢中になった香りとして知られています。
プール・アン・オムの愛用者と言えば、俳優のセルジュ・ゲンズブール。
彼は、普段はゲランの香水を愛用していましたが、パートナーのジェーン・バーキンとともに、粋なコマーシャルソングでこの香水の魅力を歌い上げました。
俺は美男じゃないが 色気たっぷりの男で通っている
色気こそが俺の魅力で、まさに秘密兵器さ
キャロンのプール・アン・オムは男のためってことさ
女を射止める奥の手がある
それこそ俺の魅力
まさに秘密兵器さ
キャロンのプール・アン・オム
キャロンのプール・アン・オム
オーデトワレ
そして魅力のすべて
5.香水の纏い方・選び方
香水初心者の方、付け方がわからない方向けのコンテンツも配信しております。
よかったらご参考くださいね!
香水の付け方ノウハウ↓↓↓
香水の香り方ノウハウ↓↓↓
香水にも種類とジャンルがある↓↓↓
おわりに
キャロンにまつわるエピソードの数々、いかがでしたでしょうか。
ひと瓶に、伝統と冒険心がギュッと凝縮されたキャロンの香水たち。
国内では取り扱いが少ないようですが、見かけた際はぜひ一度手に取ってみてくださいね。
★本記事の参考文献はこちら★
フォトグラフィー世界の香水/マリ・ベネディクト・ゴーティ/2013